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【No.777号】 【発行日】2018/7/5 [8-2]
 つれ連れ草 -630- 豊溪小学校副校長 大須賀 雅子
●心豊かに

【 記事 】

『走る前血をさわがせるピストル音』
 運動会の100メートル走のことを詠んだ教え子の俳句です。もう20年以上前の句ですが、六年生だったその子の走る順番を待つ緊張した横顔を、運動会の賑やかさとともに今でもはっきりと思い浮かべることができます。
 子供の俳句(一行詩)指導に出会ったのは、初任校の時でした。高校・大学と運動部の活動ばかりで、あまり文化的とは思えない生活を送ってきた私に俳句指導なんてできるのかと不安になったのを覚えています。
 学校全体で取り組んでおり、子供たちが一日一句をノートに書いて毎日提出し、担任がコメントを書いて返すという取り組みでした。子供たちは、遊びのこと、家族のこと、習い事のことなど実に様々なことを題材に書いてきてくれました。
『スケボーでとぶ瞬間に空見える』
 当時六年生だった男子の一句です。やんちゃな子で、若い担任(私)をよく困らせていた彼でしたが、俳句からは教室だけでは分からない彼のもつ豊かな感性が伝わってきました。俳句を通して子供たち一人一人のみずみずしい感性にふれることができるのはとても楽しいことだと気付き、以後、学校を異動しても担任したクラスでは一日一句に取り組んできました。
『雨がふる黒い地面がすきとおる』
『イワツバメ雨のカーテン切って飛ぶ』
 これは都心の学校に勤めていたときに担任していた子供の句です。アスファルトのぬれた地面、マンションに巣を作って子育てしていたイワツバメ。雨が降ると何となく気持ちも晴れず、忙しい日常生活に余裕を無くしている時、こんな句に出会うとスーッと心が軽くなり、雨も悪くないなと思ったものです。
 振り返ってみると、あわただしい生活を送っていた私に、子供たちの俳句は、季節の移り変わりや身の回りにある自然の美しさ、時にはつい笑ってしまうような出来事などを教えてくれ、心豊かに生活することの素晴らしさを思い出させてくれていたように思います。
 今も相変わらず余裕のない日々を送っている私ですが、どんなに忙しいときでも、一日の中でほんの一瞬立ち止まって、周りを見回し振り返る時間を大切にしたいと思っています。たまには自分でも一句詠んでみようかと試みることもあるのですが、駄作すら浮かばず、子供たちの豊かな感性には到底及びません。

 1964年練馬区生まれ 北区在住


光が丘新聞         2018/7/5

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