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【記事】
旅が好きである。日常のあくせくとした生活から離れ、その土地の自然に親しみ、温泉につかる。何よりのご馳走である。中でも水のある風景が。海よりも湖、湖よりも川。 川は、小さな流れから徐々に水量を増し、谷を刻み、大小無数の支流を集め、やがて大きな流れとなって大海に注ぐ。絶えず流れる水の流れと川が作り出すさまざまな景観。そこに暮らす人々の生活。そんな川を眺めながら物思いにふける。そんな一時が何よりも心地よい。 今夏は長野県から岐阜県を旅した。千畳敷カールで知られる中央アルプス宝剣岳。その急な斜面を流れ落ちる水量豊かな滝や沢。伊那谷を貫流する天竜川。景勝地天竜峡は舟下りの観光客で賑わう。島崎藤村の故郷、馬籠宿。尾根に沿った街道沿いに復元された家並みが連なる。「木曽路はすべて山の中である」。「夜明け前」の書き出しが頭に浮かぶ。ヒノキの木立に包まれた男滝女滝(おだきめだき)と蘭(あららぎ)川の清流。その下流沿いに妻籠宿が。旧中仙道の宿場町の面影を色濃く今に伝える。木曽川の渓谷、寝覚ノ床。日本三名泉の一つ、飛騨川沿いに湧く下呂温泉。下呂から飛騨高山に向かう途中、川はいつのまにか日本海側の水系に。飛騨の小京都高山。庄川に沿う白川村荻町の合掌集落。…。馬籠・高山・白川郷は、私が教員になってはじめての、修学旅行の想い出の地。30年ぶりである。 一方、川はしばしば猛威を振るう。今から33年前であったと思う。青森県の黒石に行ったときのことである。岩木川の支流で、南八甲田から流れる浅瀬石川が梅雨前線による大雨で増水し氾濫。二車線通行の石造りの橋は崩れ、十和田に通じる国道は蛇行する部分で大きく剥ぎ取られて交通は寸断。川沿いの民家も多数浸水した。翌日、流域の田畑を歩くと、黄色く色づき始めた稲が見事なまでに旧河道に沿って延々と倒れているのが印象的であった。 今夏も梅雨前線や台風の影響で、記録的な豪雨に見舞われた。崖崩れや土石流、洪水の猛威が、山口県や福岡県、佐賀県を中心に各地を襲った。台湾南部の地域でも驚異的な降雨によって多数の犠牲者と大きな被害が出た。 山がちな国土の、しかも降水量の多いわが国の川の作り出す景観は美しい。しかし、その一方で起こる災害とは表裏一体の関係にあるといえる。川とも上手につきあいたいものである。 定年後は「何処に住もうか」。女房と決まって交わすこの言葉で、今年の夏の小さな旅も終わった。
昭和28年 東京都生まれ 川越市在住
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